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広島高等裁判所 平成7年(ネ)237号 判決

控訴人 山口県信用保証協会

右代表者理事 松永常一

右訴訟代理人弁護士 塚田宏之

被控訴人 国

右代表者法務大臣 長尾立子

被控訴人指定代理人 榎戸道也

大日南宣彦

高市俊雄

中嶋功

香西尭子

山口廉三

下田義人

主文

一  原判決を取り消す。

二  山口地方裁判所平成四年(ケ)第四二号不動産競売事件につき、同裁判所が平成六年七月八日作成した配当表のうち、被控訴人の債権額金一八三五万二二七五円に対し金一〇九万三六七三円の配当額を定めた部分を取り消し、右金額を控訴人に配当する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  当事者の申立て

1  控訴の趣旨

主文同旨

2  控訴の趣旨に対する答弁

(一)  本件控訴を棄却する。

(二)  控訴費用は控訴人の負担とする。

事案の概要

本件事案の概要は、次に付加するほか、原判決の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるからこれを引用する。

1  控訴人の主張

(一)  国税徴収法二条十二号は「強制換価手続」の意義を定めるにつき、「滞納処分、強制執行、担保権の実行としての競売、……」と規定し、同号では「強制換価手続」を「個別の配当手続」に限定するような規定はしていないし、同号からはそのような解釈も導かれない。

(二)  ある事件について強制換価手続がなされる場合、その事件に対して配当要求の終期が定められ、それに基づいて債権届出、交付要求がなされる。執行裁判所はこの終期の時点で「三すくみの事態」が判明するから、国税徴収法二六条によって調整することになる(その後の具体的な配当手続で同時売却か、分割売却のいずれにするかは、物件の性状、地形、全体面積等の様々な要因が加わって決せられることで、偶然的な事情である。)。

国税徴収法二六条の調整は、「三すくみの事態」が判明した時点で終わるというべきであり、将来の異時配当の度ごとに改めて調整を行うべきものではない。

(三)  本件が同一の裁判所における同一の事件内の事案であることを改めて強調したい。

2  被控訴人らの認否

控訴人の主張は争う。

三  争点に対する判断

1  前示のとおり(原判決第二、一)、

(1)  山口地方裁判所は、いずれも本件競売事件につき、平成五年一二月一日原判決別紙物件目録≪省略≫記載3、4の売却決定をし、平成六年二月一四日の配当期日において前件配当表を作成し(なお、前件配当手続において、控訴人(根抵当権者)と被控訴人(公課)と山口労働基準局(公課)が三すくみの事態となり、法定納期限が控訴人の根抵当権設定登記日に先立つ山口労働基準局の本件債権(一〇九万三六七三円)が国税徴収法二六条三号の規定に従って交付要求先着手により被控訴人に配当された。)、その後、同年四月二七日同物件目録記載1、2の売却決定をし、被控訴人に対する配当額を決定するにあたり、前件配当手続にも用いられた山口労働基準局の本件債権(一〇九万三六七三円)を再度、私債権に優先する公課グループの総額を確定するために使用することを認め、同年七月八日の本件配当期日において被控訴人に対し優先的に一〇九万三六七三円を配当する旨の本件配当表を作成したこと、(2) 控訴人は、本件配当表に対し、本件配当表に記載された被控訴人に対する配当額(一〇九万三六七三円)は全額控訴人にされるべきである旨の異議を述べたこと(争いがない。)が認められる。

しかしながら、右の事実関係のもとでは、山口地方裁判所が本件配当表を作成するにあたり、本件競売事件において、前件配当手続で私債権に優先する公課グループの総額を確定するために用いた山口労働基準局の本件債権を、本件配当手続においても再度使用することが認められるとした点を是認することができない。

すなわち、担保物権により担保された私債権に優先する租税公課がその私債権に劣後する別の租税公課に劣後するといういわゆる「三すくみ」の事態が生じた場合、国税及び地方税等と私債権との競合の調整のため国税徴収法二六条の規定が設けられているが、同条は、本件のように同一の競売事件において私債権の担保物件が順次に売却処分され、異時配当がなされた場合において、右配当手続の都度、担保物件により担保された私債権に優先する租税公課が同条の調整規定による優先権を反復して行使することができるかどうかの点についてまで規定するものではなく(同条のいう「強制換価手続」を、個々の配当手続の意に解することはできない。)、そして、右の点に関する国税徴収法(及び地方税法)の規定は見当たらない。この点に関し、被控訴人は、国税徴収法には優先権の反復的行使を禁止する旨の規定がないことから、優先権の反復的行使は許されるとし、結果的に担保物権者が不利益を受けることがあるとしても、それは租税公課の一般的優先の原則上(国税徴収法八条、地方税法一四条)やむをえない旨の主張をするが、当裁判所は、かかる見解を採らず、むしろ国税徴収法に優先権の反復的行使を認める旨の明文の規定がない以上、少なくとも同一の競売事件においては、かかる租税公課の優先権の反復的行使は国税徴収法一五条、一六条の規定の趣旨に照らし許されないものと考える(なお、最高裁判所平成二年(オ)第九二六号同四年七月一四日第三小法廷判決、仙台地方裁判所昭和五六年二月一〇日判決、東京地方裁判所平成六年一〇月五日判決等は、被控訴人の主張に副う見解を採るかのようであるけれども、これらは、いずれも本件のように同一裁判所における同一の競売事件について分割売却により異時配当がなされたという事案ではなく、いずれも裁判所を異にするか、裁判所が同一であっても異なる競売事件の換価手続において優先権の反復的行使がなされたというもので、本件とは事案が異なる。)。

そもそも、租税公課の優先権を反復して行使するという事態は、国税徴収法の予測するところではないと考えられる。そして、国税徴収法にこれを禁止する旨の規定がないからといって優先権の反復的行使を認めることは、「法定納期限等」を基準として租税公課と私債権との優劣を決することとし、担保物権者に予測可能性を確保することにより、その保護を図ることを期して設けられた国税徴収法一五条、一六条の規定の趣旨に反し許されない。

なお、本件のように私債権と租税公課とが競合する場面では、これを調整するための特別規定(国税徴収法一五条、一六条、二六条)が優先的に適用(または類推適用)されるべきであり、租税公課優先の一般原則(国税徴収法八条、地方税法一四条)をもって、優先権の反復的行使を認める理由とすることはできない。

したがって、これと見解を異にし、本件配当手続においても山口労働基準局の本件債権の再度使用を認めて作成された本件配当表は相当でないから、本件配当表のうち、被控訴人の債権額金一八三五万二二七五円に対し金一〇九万三六七三円の配当額を定めた部分を取り消し、右金額を控訴人に配当すべきである。

四  結語

よって、控訴人の本訴請求は理由があるからこれを認容すべきであり、これと結論を異にする原判決は不当であるから、本件控訴に基づき原判決を取り消し、本判決主文二項に掲記のとおり配当表の取消(一部)並びに控訴人への配当を命ずることとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柴田和夫 裁判官 松村雅司 岡原剛)

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